分娩方法の選択!!〜無痛分娩のリスクを知ろう〜

分娩予定日が近づくと、分娩に対する強い不安や痛みへの恐怖で夜も眠れなくなるお母さんは多くいらっしゃいます。中には無痛分娩を考えている方も少なくないでしょう。

「無痛」と言っても完全に痛みがとれるわけではありませんが、痛みが軽減されるだけで緊張や不安が軽くなり、リラックスした心と体でお産に望むことができると言われています。しかし、手術などで使われている麻酔薬を用いることに不安があり、ためらう方もいらっしゃるという声もよく耳にします。無痛分娩にどんなリスクがあるのかを知っていただき、分娩方法をご自身の意思で選択する手助けになればと思います。

 

陣痛はどのぐらい痛いのか。

分娩時の痛みは、女性が生涯で経験する最も強い痛みと言われています。

しかし、痛みは感覚なので、主観的で個人差が大きく、不安や恐怖など、その時の精神状態も加わるため、痛みの強さは客観的な数値で表すことは難しいです。痛みに対する耐性は人それぞれなので、最初から耐えられないほどの痛みと感じる人もいれば、生まれる間際になって、ようやく強い痛みを感じる人もいます。

そのため、一概にいつから痛くなるのかということもまた難しく、産婦さんが「痛い」と思えば、そこに「痛み」が存在するのです。

 

なぜ、そんなに痛いのか。

人類の祖先は、環境の変化に適応して直立二足歩行で獲物を追跡する狩猟採集生活を始めました。そのため、歩行に必要のなくなった前足が自由に使えるようになり、手となって発達しました。そして、手の発達が知能を発達させ、頭部が大きくなっていきました。そのため、おなかの中で赤ちゃんが十分に育つと、他の哺乳動物よりも人間の頭は大きいため産道を通過するのが大変になりました。そのため我慢の限界を超えた痛みが発生するのです。

 

どんな方法で麻酔をするのか。

陣痛の緩和方法はさまざまありますが、鎮痛効果が確実なのは区域麻酔という方法であり、背中側から背骨に針を刺して麻酔薬を注入する「硬膜外鎮痛」が主流となっています。硬膜外麻酔は、脊髄くも膜下腔の外側に位置する硬膜外腔に局所麻酔液を投与して鎮痛する方法で、全身麻酔とは違い、お母さんの意識や赤ちゃんの呼吸が抑制されることなく、お母さん、赤ちゃんにとって最も安全で効果的な方法と言えます。

脊髄神経には体を動かす運動神経と痛みや温度を感じる知覚神経があります。硬膜外腔は脊柱管の後ろ側にある半月状のスペースで、そこに麻酔薬を注入すると知覚神経には麻酔薬が十分に到達して効果を表します。しかし、運動神経は解剖学的関係上、麻酔薬に対する感受性が低いために、その影響は知覚神経よりも少なくなります。

麻酔薬の投与量を適切に管理することで、痛みは感じにくくなり、それ以外は自然分娩と同じで力を入れることができる「張ってくるのはわかるけど、痛みはない」という状態になることができるのです。

もちろん麻酔薬の効き方には個人差があるので、全ての人がそうなれるというわけではありませんが、その状況に近づくことができるように主治医と相談して麻酔薬の量や濃度を調整していくことになります。

自然分娩との違い

無痛分娩には、次のような自然分娩との違いやリスクがあります。

①分娩時間が長くなる

麻酔を使うことによって陣痛が弱くなることがあり、分娩時間が長くなったり、吸引や鉗子分娩が必要となる可能性が高くなると言われています。また、自然分娩では陣痛によって自然に腹圧がかかり、赤ちゃんを生み出す最大限の力を発揮することがありますが、痛みのない状態では普段以上の力を出すことが難しいことが多いです。

その場合は促進剤を使用して分娩を進行させる必要があります。麻酔により「張ってくるのはわかるけど、痛みはない」という状態であれば、お母さんは張りのタイミングで上手にいきむこともできます。しかし、中には麻酔が効き過ぎて、いきむタイミングがわからなくなるお母さんもいます。その場合は、薬の量を調節したり、医師や助産師の声かけのタイミングに合わせて、いきみを入れたりすることになります。

②異常な症状の発見に気づきにくい

痛みは人の体に備わるアラームサインと言えます。その防御機構を取り去った場合、危機的状況にある痛みを感知できないので、異常の発見が遅れてしまう可能性があります。

例えば、常位胎盤早期剥離という状態が起こると、激烈なおなかの痛みを感じますが、無痛分娩の場合は、その前兆に気づかずに発見が遅れることにより、お母さんや赤ちゃんが危険な状況に陥ってしまうことが考えられます。そのため、医師や助産師が常にお母さんと赤ちゃんの状態を観察して、異常があればすぐに対処できるように準備をしながら分娩を進めていきます。

③低血圧

麻酔の影響で低血圧を起こす可能性は低くありません。しかし、医師や助産師が観察を行い、低血圧の際には適切に対処していきます。

④頭痛

麻酔の影響で分娩後に頭痛を起こす可能性がわずかですがあります。この頭痛は座ったり立ったりすることにより強まるので分娩数日後に見られることが多いです。ほとんどの場合、1週間程度で自然に良くなりますが、育児や授乳の妨げになることがあります。

⑤かゆみ

かゆみを感じることがあります。多くの場合、我慢できないようなかゆみではありません。冷却などの対処療法を行うこともあります。

⑥発熱

38度以上の発熱を起こすことがあります。一時的なことがほとんどです。

⑦腰痛、下肢の神経障害、排尿障害

まれではありますが、分娩後に下肢の神経障害が生じる場合があります。また、一時的に排尿障害が起こることもあります。

⑧極めてまれな重篤な合併症

局所麻酔薬中毒、全脊髄くも膜麻酔、硬膜外血腫・膿瘍、薬剤アレルギー神経障害、アナフィラキシーなどがあります。しかし、これらの重篤な合併症は非常にまれであり、後遺症を残すようなものはさらにまれと考えられます。また初期の段階で適切な対応を行うことで重篤になることを防止することができます。

どんな出産であれ、必ずリスクが伴うものですが、特に無痛分娩では麻酔という薬を使うことから、一般的な自然分娩とは別のリスクが生じます。どんな分娩法を選ぶにしても、出産は女性にとって大きなイベントです。医師や助産師に希望を伝え、安全性やリスクなどについても十分に理解し、納得のいく方法を選択して安心して分娩に臨みましょう。

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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