「無痛分娩」できる人、できない人

近年、出産方法の一つとして関心が高まっている「無痛分娩」ですが、諸外国に比べ、日本ではまだ利用者も少なく、選択肢として考えている方は少ないようです。

海外では無痛分娩の実施率60%以上の国も多くありますが、日本では10%にも満たない実施率となっています。

また、日本では希望する妊婦さんが少ないだけでなく無痛分娩を行える施設も全国で40%ほどと少ない実状があります。

そして無痛分娩にはできる人とできない人がいます。

多くの方は問題なく無痛分娩を受けることができますが、身体的理由によって実施することができない方もいらっしゃいます。

「当てはまる方は注意!!無痛分娩ができない可能性が」

【分娩の進行が非常に速い方】

麻酔を使うまでにカテーテルを入れるなどの処置が必要なので、お産の進行が速いと麻酔の効果を十分に得られる前に出産を迎えてしまう可能性があります。

計画分娩の予定日以前に陣痛が始まった経産婦さんは進行が速いことも多く、出来ない可能性があります。

【背中の皮膚に皮疹やアトピー性皮膚炎がある方】

状態によっては感染症の可能性が高くなることがあるため、行うことが出来ない可能性があります。

【麻酔薬にアレルギーのある方】

アレルギー反応が起きると安全に出産ができないため、行うことができません。

【ヘルニア手術や腰椎骨折をした方、極度の側弯症の方】

無痛分娩は帝王切開とは麻酔の入れ方が異なり、硬膜外という背骨に沿った場所にカテーテルを入れて、少しずつ麻酔薬を入れる方法が一般的です。手術や骨折をした場合、カテーテルを入れる付近に金具を埋め込んでいることがあります。

また側弯症の方は背骨が曲がっているため、カテーテルを入れることができない場合があります。

【心臓病、脳梗塞、肝臓の病気】

抗凝固剤(血液を固まりにくくする薬)を飲んでいる方、肝臓の病気などで出血が止まりにくくなっている方は、術後硬膜外腔に血の塊ができやすくなり下半身麻痺などの原因になることがあります。

【肥満の方】

無痛分娩に使う硬膜外麻酔は背骨の突起と突起の間に針を刺します。背中に脂肪がついていると背骨に触れることができず、万が一目測で針を刺した場合、神経を傷つけてしまいかねません。

軽度の肥満は問題ありませんが、80kg以上で背中の皮下脂肪が多い方はカテーテルを通すことが困難になります。しかし脂肪より筋肉は重いため必ずしも体重が目安になるわけではありません。

心配な方は背中を曲げてご自身で背骨を触ってみてください。突起とくぼみの区別がつけば無痛分娩を行うことができるかもしれません。(主治医の判断によります)

「無痛分娩を選択することでメリットの多い人はどんな人!?」

【不安感の強い方】

パニック障害や心の病、出産に対しての不安が強い方は無痛分娩を選ぶことで、より安心安全に出産を迎えることができます。妊娠がわかった時から出産されるまでずっと痛みに対する不安で悩まれるよりも、少しでも不安を取り除き、穏やかな気持ちでマタニティーライフを送っていただいた方が、妊婦さんにも赤ちゃんにもより良い環境になると思います。

【高血圧の方】

妊娠以前より高血圧の方、妊娠高血圧症候群になってしまった方は陣痛の痛みによって血圧が上がってしまいます。無痛分娩にすることで痛みを和らげ、血圧の上昇を抑えることができるので、血流の悪化を防ぎ、より多くの血液や酸素を赤ちゃんに送ってあげることができます。

【分娩が進まず体力を消耗している方】

陣痛が始まってから2日以上かかり出産された方も少なくないです。どんなに順調にお産が進む方でもかなりの体力を消耗しますが、丸1日2日かかると陣痛に耐える力が弱くなり、結果的に陣痛が遠のいてしまったり、急遽帝王切開になったりしてしまいます。微弱陣痛になってしまうと更に長引きますし、帝王切開より経腟分娩の方がより安全な出産の為、微量の麻酔を使う無痛分娩を使い一時的に体力の消耗を減らし分娩を再開させることも事前に相談しておくと良いかもしれません。

「出産方法は一択ではないですよ」

出産を経験された方でも同じ進み具合の出産を経験することはほとんどないと思います。年齢が変わり体型も変わり、食生活や日常も変わります。

1人目が安産でも2人目が難産だったり、1人目が難産で2人目を産むことへの不安が拭えなかったり、千差万別な出産があります。

時代とともに出産方法も多様化してきています。

自然分娩、計画分娩、帝王切開が聞き慣れ一般的ですが、無痛分娩など新たな出産方法も素晴らしい出産方法です。

経験者や実施施設が少ないため、情報も少なく選択肢として考えられにくいのが現状ですが、ご自身の身体的、心理的にも一つの選択肢として考えてみると良いかもしれませんね。

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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