2022年2月4日
妊娠中期

要注意!妊娠中の3つの疾患

坂田陽子

記事監修者:坂田陽子

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

<妊娠中に気をつけたい3つの疾患>

妊娠するとホルモンバランスが変化し、それに伴って体調にも様々な変化が生じてきます。妊婦さんの中にはこれまで感じたことのない不快な症状や疾患を患う方もいらっしゃいます。今回は妊娠中に気をつけたい3つの疾患についてお話していきます。

妊娠初期に気をつけたい疾患である妊娠悪阻、妊娠中期に気をつけたい疾患である妊娠糖尿病、妊娠後期に気をつけたい妊娠高血圧症候群について詳しくご説明いたします。

<妊娠初期の疾患 妊娠悪阻>

妊娠悪阻とは、つわりが重症化し、頻回な嘔吐と著しい食欲不振が生じることで脱水や栄養代謝障害を生じる疾患のことです。つわりは、妊娠による急激なホルモンバランスの変化などにより妊娠5~8週目頃に現れることが多い症状です。妊婦の半数以上が経験するとされていますが、妊娠12~16週頃には自然と改善していくことが多く治療が必要になることはほとんどありません。

一方、重度なつわりである妊娠悪阻は妊婦の約0.5%に発症し、適切な治療を受けないと脳や肝臓に障害を引き起こすなど重篤な合併症を生じる可能性のある疾患です。頻回な吐き気や嘔吐が生じることで体内から水分や電解質が失われ、体を維持するために必要なエネルギーや栄養素を補うことができなくなることもあり、重症化すると命に関わることも珍しくありません。

妊娠悪阻を根本的に治す治療法はなく、失われた水分や電解質を補い、吐き気止めなどを使用する対症療法が行われます。水分を経口摂取できる場合には電解質が含まれた経口補水液を摂取するのが望ましいのですが、妊娠悪阻では経口摂取が困難な場合がほとんどです。このため、入院したうえで絶食し、体内に必要な電解質やビタミンB1が含まれる輸液治療が行われます。これらの治療を続けることで、多くは妊娠16週頃には症状が改善していきます。

一方で、長期間症状が治まらない場合や体重減少が著しい場合などは、通常の点滴ではなく、首や鎖骨の下にある太い血管の中に管を入れてカロリーや栄養素がより多く入っている輸液(中心静脈栄養)が行われます。

<妊娠中期の疾患 妊娠糖尿病>

妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて診断された糖代謝異常のことです。妊娠前から糖尿病と診断されている場合には、糖尿病合併妊娠とよばれます。日本産科婦人科学会によると、妊婦の7~9%程度が妊娠糖尿病と診断されているといわれています。

妊娠糖尿病を放置していると、母体だけでなく胎児にも影響が出るため、妊婦健診を定期的に受けることが大切です。妊婦健診では、妊娠初期と妊娠中期に血糖値のスクリーニング検査が行われ、糖代謝異常が疑われる場合には診断のための検査が必要になります。

特に肥満の人、家族に糖尿病の人がいる場合、高年妊娠(35歳以上の初産)、4,000g以上の大きな赤ちゃんを出産した経験のある人などは、妊娠糖尿病を発症するリスクが高いため注意が必要です。妊娠糖尿病では赤ちゃんの過剰発育、妊娠高血圧症候群、帝王切開、新生児低血糖、新生児黄疸などのリスクが高くなることが知られています。

妊娠糖尿病の治療では、母体と胎児に異常が起きないように血糖値を厳重にコントロールすることが大切です。食事療法、運動療法、インスリン療法などを合わせて行います。ただし、妊娠中は体調によって運動をしない方がよい場合もあるので、必ず主治医に相談しましょう。運動は、食後に行うのがよいといわれています。血糖値の改善には、ウォーキング、ヨガ、エアロビクスなどの有酸素運動が効果的です。

<妊娠後期の疾患 妊娠高血圧症候群>

妊娠高血圧症候群とは、妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる状態をいいます。蛋白尿を伴う場合もあり、その場合はより重症に分類されます。過去には妊娠中毒症と呼ばれ、高血圧・蛋白尿・浮腫(むくみ)が3大症状である疾患として知られていました。

しかし、むくみだけが単独で現れる場合、正常なケースも多いとことから、現在では病態の主体が高血圧であり、蛋白尿や浮腫は高血圧に伴って起こる症状であるという考えのもと、妊娠高血圧症候群という疾患として認識されています。なお、妊娠期に高血圧が見られたとしても、他に明らかな原因がある場合には、妊娠高血圧症候群とは呼ばないこととなっています。

妊娠高血圧症候群には自覚症状がなく、高血圧のみの場合には普段の血圧測定を行わないと疾患にかかっているかどうかは分かりません。ただし、重症化すると、臓器障害をきたすようになり、さまざまな症状が現れます。特に痙攣発作をともなう子癇(しかん)は最重症といわれます。痙攣発作が起きる前の症状として頭痛、眼のかすみやチカチカ、上腹部痛が現れることがあります。その場合には速やかにかかりつけ医療機関に相談してください。

妊娠高血圧症候群の中でも血圧と蛋白尿が基準を超えている妊娠高血圧腎症の診断を受けた場合は、入院管理が原則です。妊娠高血圧症候群の根本的な治療は妊娠を終了し、分娩を行うことです。早い妊娠週数で妊娠高血圧症候群が発症した場合は、赤ちゃんの発育を考慮し、注意深く経過観察しながら妊娠継続を行うこともあります。妊娠継続の場合は、安静、降圧剤投与、子癇の予防のために硫酸マグネシウム投与をすることもあります。

しかし、重症度が高い場合は母体救命のために分娩を選択することもあります。その場合は生まれた赤ちゃんは新生児集中治療室(NICU)で入院管理されることが多いです。対症療法を行いながら、母体・胎児の状態を考慮して分娩の時期を決定していきます。

<まとめ>

今回ご紹介した疾患はいずれも原因や症状がはっきりしていないことが多く、自覚症状がないものもあります。これらの疾患にかからないに越したことはありませんが、妊娠には不測の事態がつきものです。大切な赤ちゃんの命とご自身の命を守るためにも定期的に妊婦健診を受けるようにし、疾患の早期発見・早期治療に努めていきましょう。

 

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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