帝王切開は手術・・・ 後遺症が心配
帝王切開とはおなかと子宮を切開することによって、赤ちゃんを取り出す手術です。経腟分娩が難しい場合や経腟分娩中の緊急時にお母さんと赤ちゃんの命を守るために行われます。厚生労働省の発表によると帝王切開の割合は病院で25.8%、診療所で14%と、特別低いものではなく、誰でも経験する可能性がある出産方法となっています。一方で帝王切開=手術と聞くと合併症や後遺症などを心配される方もいらっしゃることと思います。今回は帝王切開によって起こる可能性のある後遺症について、お話ししたいと思います。
帝王切開の後遺症①傷跡
帝王切開の後遺症として真っ先に挙げられるのが手術の傷跡です。帝王切開はおなかを切開する手術となるため、必ずおなかに傷ができてしまいます。帝王切開の皮膚の切り方には、横切開と縦切開があります。予定帝王切開では、目立ちにくい横切開が選択されることが多いようです。一方で、緊急帝王切開の時や大量出血が想定される時には、手術時間が短く赤ちゃんを早く取り出せる縦切開が選択されることがあります。
帝王切開の傷口は一般的に術後3日程度で閉じます。この時期は炎症期と呼ばれ、赤い腫れや痛みを感じる人が多い時期です。傷口が閉じると約3週間から1カ月の間、新しい細胞が増え、少しずつ傷を埋めていきます。この時期は増殖期と呼ばれ、閉じた傷口の下で炎症が続き、赤みや痒みを感じやすくなります。その後は細胞の活動が落ち着く成熟期と呼ばれる時期になり、傷の回復が進んでいきます。目安としては約3カ月から1年かけて傷の炎症が治り、肌色に近い傷跡になるといわれています。
帝王切開では傷をどんなにきれいに縫合しても、肥厚性瘢痕(皮膚を修復する細胞が過剰に産生され傷が赤く盛り上がった状態)やケロイド(傷に留まらず正常な皮膚まで盛り上がりが広がる状態)のように赤く盛り上がった傷跡が後遺症になってしまうことがあります。このような後遺症を残さないためにはテープなどによる傷口のケアが大切です。最低でも3カ月、傷が治るまで続ける必要があります。レーザー治療、ステロイド注射、形成外科での傷跡修正などで傷跡を目立たなくする方法もあります。
帝王切開の後遺症②古傷の痛み、痒み
帝王切開に限らず、皮膚を切開する手術の後遺症として古傷の痛みや痒みがあります。
古傷の痛みは皮膚の下の筋肉組織が完全に修復されていないために起こるといわれています。また血流が悪くなったり、筋肉の伸縮がうまくいかなくなったりすると痛みを感じやすくなります。痛みは交感神経と関わるので、頭痛や吐き気など神経系の症状として表れる場合もあります。交感神経の働きが活発化すると血管の収縮が起こります。すると古傷やまわりの痛覚神経が高ぶり、痛みが生じることがあります。古傷の痛みは気圧の変化やストレスが引き金で発生します。運動や呼吸で自律神経のバランスを整え、身体の血流を良くして筋肉の緊張を和らげるようにしましょう。また、ストレスをため過ぎないように心がけましょう。
また、帝王切開の後遺症として古傷の痒みに悩まされることもあります。古傷の痒みは血行の促進や乾燥によって引き起こされます。痒みを感じても傷をかいてはいけません。皮膚を傷つけ感染症にかかるリスクなどがあるからです。患部を冷やしたり、肌を保湿したりすることで痒みが抑えられます。我慢できないほど痒い時には皮膚科に相談し、塗り薬や飲み薬を処方してもらいましょう。
帝王切開の後遺症③癒着
帝王切開などの手術によって開腹した傷跡を縫合し、組織と臓器を自然治癒させていく過程で本来離れているべき組織同士がくっついてしまうことを癒着といいます。帝王切開では皮膚から筋組織、腹膜を切開し、子宮を露出させて、さらに切開することで胎児を取り出します。この術後に傷口が治ろうとする際に子宮と腹膜、また子宮とその周りにある臓器(腸や膀胱、卵巣など)がくっついてしまうことがあります。癒着の原因は、体が自然に治ろうとする治癒能力にあります。癒着は帝王切開手術に限らず、開腹手術では90%の確率で生じるとされています。
癒着が起こったとしても症状が無い場合もありますが、様々な後遺症を引き起こす場合もあります。癒着が引き起こす後遺症には慢性的な下腹部痛、膀胱の機能障害、イレウスなど腸の機能障害などが挙げられます。また、組織の癒着があると、その後の帝王切開や開腹手術の時に癒着を剥ぐ作業が必要となり、再癒着や大量出血のリスクも高くなります。さらに癒着は次回以降の妊娠にも影響を及ぼすことがあります。卵巣や卵管が癒着してしまった場合には不妊症になることもあるようです。
癒着しているかどうかは、開腹してみないと分かりません。癒着の後遺症は必ずしも起こるわけではありませんが、リスクがあることは知っておきましょう。
帝王切開の後遺症④心の傷
帝王切開で出産した方の中には、理想の出産ができなかったとがっかりしたり、周りの人から心無い言葉をかけられて傷ついたりと、心に傷を負ってしまう方もいます。特に緊急帝王切開の場合、心の準備をする余裕もなく、帝王切開が行われるため、後悔してしまう方もいるようです。このような心の傷による後遺症は今後の子育てにもマイナスな影響を与えてしまうことがあります。辛い気持ちは1人で抱え込まず、誰かに相談しましょう。自治体の保健師さんや同じように帝王切開で出産した家族や友人に話を聞いてもらうと良いかもしれません。また、帝王切開で出産したお母さんのケアを行っている医療機関もあるようです。
まとめ
いかがでしたか?帝王切開の後遺症は必ずしも起こるというわけではありません。あまり心配しすぎることなく、出産前の予備知識として頭の片隅にでも置いていただけたらと思います。後遺症について知っておくと事前に出来る準備や対策もあるかもしれません。今回の記事を参考にしていただけたら幸いです。
この記事の監修者

坂田陽子
経歴
葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。
日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業
資格
助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー