2022年3月31日
胎児

胎児の発育に必要な妊娠期の栄養

<胎児を支える妊娠期の栄養>

胎児の生命と発育は、母体との特別な代謝の仕組みによって保たれています。母体が健康であることが同時に胎児の正常な発育をもたらします。

妊娠期の栄養は胎児の栄養でもあります。胎児の発育、胎児付属物(胎盤、臍帯、羊水など)の形成、子宮や乳腺の発育、分娩と産後のための体力維持、母乳の確保などのために適切に供給されなければなりません。妊娠に伴って母体の生理機能が変化するため、それに対応した栄養を考える必要があります。今回は、胎児を支える妊娠期の栄養管理についてお話していきます。

 

<胎児の発育>

受精卵が子宮内膜に着床すると妊娠が成立します。受精卵は細胞分裂を繰り返し、胎芽(着床から7週まで)を経て、胎児となります。胎児の成長に伴う特徴を考慮して、妊娠期間を妊娠初期(~15週)、妊娠中期(16~27週)、妊娠後期(28~40週)と呼びます。

胎児を発育させるために、卵膜、臍帯、羊水、胎盤が形成されます。卵膜は胎児を羊水と共に包み、外部からの刺激や細菌感染を防ぎます。羊水は胎児の回りの温度を一定に保つなど胎児の生活環境を形成しています。臍帯は胎児の臍部から胎盤につながっている紐状の組織で、中には血管が通っており、胎盤から酸素や栄養素を胎児に送る動脈血と、胎児から炭酸ガスや老廃物を母体血に排泄する静脈血が流れています。胎盤は15週頃には完成し、その後も妊娠経過とともに発達して胎児の発育のための栄養供給および呼吸や排泄をつかさどる機能を持ちます。

 

<母体の身体的変化>

妊娠によりホルモンの分泌が変わると、母体には様々な身体的変化が現れます。体重は妊娠週数と共に増加し、個人差はありますが、非妊娠時に比べて約10kg増加します。胎児の発育と母体組織の増加のために代謝が亢進します。

妊娠8週ごろから消化器系の障害として、食欲不振、悪心、嘔吐、胸やけなどのつわりが見られますが、2カ月ほどで治まることがほとんどです。

循環血液量が増加するため、心臓への負担が大きくなります。血液は血漿の増加が著しいため見かけ上の貧血が見られます。

子宮や乳房が大きくなるにつれて皮膚や皮下組織が伸びますが、急激には伸びきれないので縞状に断裂した妊娠線が生じることもあります。

膀胱や尿管が子宮や胎児に圧迫されることにより頻尿になり、尿失禁が起こりやすくなります。また、妊娠後期には子宮の腸管圧迫により便秘がちになります。

 

<栄養素の妊婦付加量>

妊娠時には胎児の正常な成長とそれに伴う母体の変化を支えるために、同年齢の女性における生活活動に必要な栄養所要量に付加した栄養補給が必要になります。これを妊婦付加量といいます。「日本人の食事摂取基準」(2020年版)によれば、栄養素にはそれぞれ妊婦付加量が定められています。

エネルギー摂取量は、母体の基礎代謝の増加や胎児や胎盤などの組織の増加を考慮して付加されます。1日の付加量は妊娠初期で+50kcal、妊娠中期で+250kcal、妊娠後期で+450kcalとなっています。

たんぱく質摂取の推奨量は、胎児、胎盤、臍帯、羊水、子宮肥大、循環血液量の増加などのために妊娠中期、妊娠後期に付加されます。1日の付加量は妊娠中期で+5g、妊娠後期で+25gとなっています。

各種ビタミンは胎児の要求に応じて母体より供給されるので、非妊娠時よりも多く摂る必要があります。ビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、葉酸には付加量が定められています。特に葉酸は胎児にとても大切な栄養素です。妊娠初期の女性が十分な量の葉酸を摂取することで、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減させるということ分かっています。神経管閉鎖障害発症の予防のために摂取が望まれる葉酸の量は1日400μgとされており、妊娠初期だけでなく、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性は摂取することが重要とされています。

無機質(ミネラル)については、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、セレンで付加量が定められています。妊婦のマグネシウム欠乏は妊娠高血圧症候群を引き起こします。また、血液量の増加に伴う貧血を予防するために鉄の摂取は重要です。カルシウムは現在の食事摂取基準では付加されていませんが、胎児の骨形成に必要で不足すると母体の骨組織が胎児の骨形成に利用されてしまうため、積極的な摂取が必要です。

 

<妊娠期の栄養管理>

妊娠初期は、つわりによる味覚の変化、食欲不振、悪心、嘔吐などで食事摂取量が減少します。食べられるものを食べたいときに摂取するのが良いでしょう。

妊娠中期になるとつわりの症状は消失し、食欲も出てきます。食事摂取量は通常の量を少し増す程度にし、急激な体重増加が起こらないよう気をつけましょう。良質なたんぱく質の摂取、積極的なカルシウム摂取、緑黄色野菜や季節の果物の摂取などに努めましょう。味付けは薄味を心がけましょう。バランスのとれた食事にし、規則正しい生活をすることが大切です。

妊娠後期には胎児が急激に大きくなり、そのための栄養量も増加し、母体の増量、分娩と産後の体力保持のためにも十分な栄養素の摂取を心がけなければなりません。特に良質の動物性たんぱく質、鉄、カルシウム、ビタミンの摂取を心がけましょう。便秘予防のために野菜、果物、きのこ類、海藻類などから食物繊維を摂るようにしましょう。

 

<まとめ>

胎児のために重要な妊娠期の栄養についておわかりいただけたでしょうか。妊娠中の低栄養は母体や胎児に悪影響をもたらし、正常な胎児の発育を阻害します。しかし、過剰な栄養摂取にも注意が必要です。妊娠期に応じてバランスのとれた食事を適切な量摂取するようにしましょう。

 

<参考文献>

「日本人の食事摂取基準」(2020年版)厚生労働省

好きになる栄養学 第3版   浅見直美・塚原典子 著

コンパクト栄養学 改訂第2版 脊山洋右・廣野治子

栄養科学シリーズ NEXT 応用栄養学 第2版 中坊幸弘・木戸康博 編

新 食品・栄養科学シリーズ 応用栄養学 第3版 灘本知憲・宮谷秀一 編

 

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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