ヒトに対する間葉系幹細胞の培養上清投与の安全性について

2025年5月発行の「PLOS ONE」で、様々な慢性疾患を持つ患者に対する間葉系幹細胞の培養液(培養上清)投与の安全性に関する臨床試験の結果が報告されました。
さい帯には間葉系幹細胞と呼ばれる細胞が豊富に含まれており、間葉系幹細胞の培養上清はエクソソームなどの抗炎症作用や免疫調整作用を持つ分泌物を多く含んでいます。
この研究は、ヒトに対する間葉系幹細胞由来培養上清を用いた細胞フリー治療の安全性と可能性を検証した臨床試験です。
Safety assessment of multiple systemic administration of human mesenchymal stem cell-conditioned medium for various chronic diseases
PLoS One. 2025 May 6;20(5):e0322497.
試験内容
臨床試験においては肺疾患や心不全、慢性腎臓病、全身疲労などの様々な慢性疾患を持つ患者55名が参加しました。
55名の患者は肺動脈、動脈、静脈、吸入投与の4つの経路での複数回投与を受け、体調の変化と、体内の炎症反応を示す指標であるCRP(C反応性タンパク質)の血中濃度を投与前後で比較しました。
投与経路ごとの投与回数(累計)
試験結果
投与を受けた55名の患者のうち、4名にめまい(マッサージ中)、食欲不振、腸炎、腎後性水腎症、40℃の発熱といった予期しない体調の変化が見られました。ただし、これらはいずれも軽度であり、培養上清との直接的な関連性は確認されていませんでした。また、命にかかわるような深刻な健康被害は一切報告されておらず、本治療法は安全性の高い可能性があると考えられます。
炎症マーカーの変化(CRP濃度)
この研究が再生医療にもたらす意義
全ての投与経路でCRP濃度の減少傾向が見られ、明らかな炎症反応は認められませんでした。これにより、間葉系幹細胞培養上清投与の安全性が裏付けられました。これらの知見は、細胞を使用せずに治療効果を得る細胞フリー治療が、次世代の再生医療として実用化される可能性を強く示唆するものです。
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