熱っぽい、これって妊娠? 〜妊娠初期の体温の変化〜

体温の変化

人間の体温は、常に一定ではありません。体温は、だいたい朝のうちは低いのですが、日中は仕事や家事などの活動をすることによって新陳代謝が活発になり、夕方から夜にかけてはやや高くなります。この体温の日内変動は、男性でも女性でも起こる現象です。

しかし、この現象とは別に、女性のからだではホルモンの作用による体温の変化が見られます。女性ホルモンは常に一定量が分泌されているわけではなく、そのときどきによって増えたり減ったりしながら、からだの調子を整え、女性を守っています。女性のからだの中では女性ホルモンが協調して働き、毎月、妊娠の準備をしています。それが不要になると、月経という形で子宮内をリセットして、また翌月に向けて準備をします。これを閉経まで繰り返しているのです。そして、このサイクルの中で分泌される女性ホルモンの働きによって、体温が上がったり下がったり変動するのです。

毎朝、定期的に測る、安静状態での体温のことを基礎体温といいます。

自分の基礎体温を知り、その変化を把握することで排卵や月経の時期を予測したり、妊娠の可能性に気づくことができます。基礎体温はあくまでもからだを動かす前の安静状態で測ることが原則です。目を覚ましたら、起き上がらずに横になった状態のまま体温を測り毎日記録していくと良いでしょう。しかし、だからといってあまり神経質になる必要はありません。基礎体温の計測はだいたいの決まった時間でよく、たまに寝過ごしてもそう変わるものではないからです。

 

通常の基礎体温グラフ

女性の基礎体温は、通常、低温相と高温相の2つにわかれます。この低温相と高温相の境目に排卵が起こります。

排卵に向かっている卵胞期にはエストロゲン(卵胞ホルモン)というホルモンが分泌されるため、体温は比較的安定した状態で低温相を示します。ところが、排卵期に入る直前に一度体温がすとんと下がり、その後排卵することによって、今度は高温相に転じます。排卵が起こると、卵子が飛び出た後に残った卵胞は黄体という状態に変化し、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌します。このプロゲステロンには体温を上昇させる作用があるため、排卵後は体温が上昇して高温相になるというわけです。この高温相は、プロゲステロンが分泌されている間は、ずっと続きます。

妊娠が成立しないと、黄体がおよそ2週間でしぼんでいき、プロゲステロンの分泌もなくなります。その結果、体温はもとの低温相に戻り、子宮内膜がはがれて月経が起こります。

28日周期の場合は、低温相が12~18日間、高温相が11~16日間持続するとされています。

<基礎体温が正常かどうかのチェックポイント>

①低温相と高温相の差が0.3度以上である

②高温相の持続期間が10日以上である

③高温相に落ち込みがない

④低温相から高温相へ3日以内に移行している

ここまで通常の基礎体温についてお話ししてきました。では、妊娠するとどのような変化が起こるのでしょう。

 

妊娠の可能性がある場合の体温変化

妊娠が成立すると、黄体が妊娠黄体となりプロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌し続けるので、体温は下がりません。妊娠した時にその徴候として、「熱っぽい」と感じる人もいらっしゃいます。

妊娠初期の高温期は個人差もありますが、だいたい12~16週くらいまで続きます。徐々に37度近かった基礎体温がだんだん下がってきて、もともとの平熱に戻ります。なぜ、この頃になると体温が下がるのかというと、この時期になると胎盤が完成してくるためです。胎盤が完成することで、今までママの卵巣から分泌されていたプロゲステロンが胎盤から分泌されるようになり、妊娠が維持されるにつれ、プロゲステロンが多量に分泌される状態にママのからだが慣れていくためと考えられます。妊娠中期以降の体温低下は、ママのからだが妊娠を維持しようとするからだの変化に対応してきたという表れであり、正常な反応といえます。

まれに、人によっては妊娠が成立した後の生理予定日頃に少量の出血が見られることがあり、これを一般的に「月経様出血」といいます。生理時より量が少なく、出血期間も1~3日と短いことがほとんどといわれますが、中には生理時と同じくらい出る人もいるようです。生理かどうか判断できないときは、基礎体温をチェックしてみましょう。出血が見られたときの前後で体温が下がっていれば生理であり、高温が続いている場合は妊娠による出血の可能性があります。一般的に高温相が17日以上続く場合は、妊娠の可能性を考えましょう。この場合は、適切なタイミングで妊娠検査薬を使い、そして、産婦人科で診てもらうようにしましょう。

妊娠がわかった後も基礎体温は習慣としてつけても良いと思います。しかし、高温相になるとされる妊娠初期に基礎体温が下がると、もしかして流産の兆候なのでは・・・と不安になるママもいらっしゃると思います。でも、基礎体温の上下と流産・早産はイコールではありません。きれいな高温相になっていても流産することはありますし、逆に多少ジグザグしていても経過が良好な場合もあります。そのため、胎嚢(赤ちゃんが入っている袋)が見えた後(およそ妊娠5~6週以降)は、妊娠中に基礎体温をつける意味はあまりないとする医師もいます。妊婦健診で異常がなく、赤ちゃんが元気に育っているようであれば基礎体温はあまり気にする必要はないでしょう。

病的な発熱が考えられる場合は、すぐに受診を!

しかし、それとは別に、風邪などの感染症の他、早急な治療が必要なつわりの重症型である「妊娠悪阻」でも発熱が見られることがあります。

妊娠に伴う生理的な発熱ではなく、感染症などの病気による発熱の場合、おなかの赤ちゃんに影響が現れることもあります。例えば、妊娠初期の39.5度以上の高熱が流産などのリスクとなるという報告もあります。

からだの異常を感じたら、早めにかかりつけ医を受診するようにしましょう。

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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