帝王切開の約6割が“緊急帝王切開”! 必要なのは「心の準備とシミュレーション」

皆さんは、何種類の分娩方法を知っていますか?

まずは「経腟分娩」「帝王切開」と大きく二つに分けられます。

「経腟分娩」は、普通分娩、座位分娩などの種類があり、欧米では無痛・和痛分娩がポピュラーな方法として取り入れられています。日本での無痛・和痛分娩の割合も増えているようですね。

「帝王切開」は、予定帝王切開緊急帝王切開の二つに分けられます。

ここで皆さん。

「緊急帝王切開」と聞いて、どういったイメージを持ちますか?

「怖いなぁ」「そうなったらどうしよう」「赤ちゃん大丈夫なのかな?」

…きっと、ポジティブなイメージの方は少ないんじゃないかと思います。

私は、「ふーん、そういうこともあるのか。レアケースなのかな」と思っていました。…自分が緊急帝王切開となるまでは。

緊急帝王切開になるかならないかは、予測がつきにくいものです。

でも、少し知っておくことで、少し心の準備ができるかもしれません。 今回は、私自身と実姉のエピソードをもとに、緊急帝王切開について知っていただけたらと思います。

【経腟分娩のシミュレーションはバッチリ?!~私の場合~】

妊娠40週2日。私は、初めての妊娠で赤ちゃんの誕生を心待ちにしていました。

妊娠経過はいたって順調。私もおなかの赤ちゃんも元気そのものでしたが、全く兆候が無かったため少しの不安を覚え始めたその日、夜に少量の出血がありました。

病院へ電話をすると、「破水かもしれないので入院の準備をして病院へ来てください」とのこと。

病院へタクシーで行くとすぐに検査があり、出血に羊水が混じっていたため高位破水であることが分かりました。私はそのまま入院となり、「もうすぐ赤ちゃんに会えるんだ」と、ドキドキしながらベッドに横たわりました。

…しかし、そこからが長かったのです。

40週3日、40週4日と陣痛促進剤を使ったため陣痛は来たものの、お産が進まず。昼頃に「バシャーッ!」と破水があり、いよいよかと思いましたが…それでもお産は進まなかったのです。

私は、この時点でも経腟分娩をするものだと思い込んで陣痛に耐えていました。

そこに担当医が来て、「もう、赤ちゃんの状態を考えても帝王切開にした方が良いですね」と告げられ、そこで初めて「ここまできて帝王切開になるの?!」と、心の中ですごく慌てたのを覚えています。

それでも赤ちゃんの無事の誕生が最優先だと思い、病院スタッフの皆さんを信じて自分と赤ちゃんを託そうと思いました。

【気持ちを切り替え、いざ手術室へ。】

40週5日。予定とは違い手術室の中でしたが、やっと、やっと、赤ちゃんに会うことが出来ました。それはとても大きな女の子で、顔をクシャクシャにして力強く泣いていました。

前日までは出来ると信じきっていたカンガルーケア(出産後すぐにお母さんと赤ちゃんが素肌で抱っこすること)は、帝王切開時は行わないという当時の病院の方針で出来ませんでした。しかし、正直そんなことは全く気にならない程、赤ちゃんが無事に生まれた感動や、出産が終わったという安堵感で胸がいっぱいでした。

これが私の「緊急帝王切開」です。

今は、5人に1人が帝王切開で出産をしていると言われています。そのうち約6割は緊急帝王切開です。その現状を知らず帝王切開について心の準備をしていなかった私は、とても慌ててしまいました。

他人ごとではなく、自分にもその可能性があると考えておくことは大切ですね。

【2歳の息子、家の片付け…気がかりがたくさん!?~姉の場合~】

姉も、私と同様に妊娠経過はいたって順調。とても元気な妊娠生活を送っていました。

当時、姉は第二子の妊娠中で、2歳になったばかりの男の子を育てながらの妊娠生活でした。

35週5日、ちょうど予定日の1カ月前。

朝、急な腹痛で目が覚めたそうです。それは子宮収縮のような痛みで、キューっとおなかが張ったと思ったら、そのまま「パーン!」と思い切り破水したと言います。

たまたま仕事が休みだった夫が、2歳の息子も連れて車で産院に運び込み、すぐに診察をしてもらったそうです。

【家族も呆然…まさかの救急搬送。】

診察した担当医は「羊水はほとんど残っていないので、今日中に赤ちゃんを出さないといけません」とのこと。その産院では緊急帝王切開の設備が十分に整っていなかったため、姉はそのまま救急車で緊急対応ができる病院へ搬送されました。

それでも姉自身は意識もしっかりしていたそうで、救急車に乗せられる際にチラッと見えた、呆然としている夫のこと、不安そうに見つめていた息子のこと、出産まで1カ月あると思って片付けてこなかったキッチンやトイレのことなどが気がかりで仕方なかったそうです…。

姉は、緊急対応のできる病院へ搬送されて診察を受けた後、すぐに手術室へ。

そして、ついに赤ちゃん誕生です。2260グラムの女の子は、驚くほど小さく感じられたようでしたが、心配よりも喜びと安堵感を真っ先に感じたそうです。

一般的に、2500グラム未満の赤ちゃんは「低出生体重児」となります。姉の赤ちゃんは「2500グラムを超えたら退院」と言われたそうで、入院1週間で姉が退院、その後入院2週間で赤ちゃんが2500グラムを超えて退院となりました。

これが、実姉の「緊急帝王切開」です。

姉の場合は、緊急帝王切開で早く生まれた娘のことだけではなく、上の子もいたことから「上の子の世話はどうするのか」「破水した日のまま片付けも出来ぬうちに、誰かが上の子の世話をしに家に来るのか」との心配もあったそうです…。

もしもの時にお願いできる人を、予定日前後だけではなく「今だったら、〇〇さんに手助けをお願いできるかな」と妊娠中は継続的にリストアップしておくことも、良いかもしれませんね。(日頃の片付けも大切ですね…)

【まとめ】

妊娠経過が順調な人でも、急に帝王切開が必要な事態になり得ます。

帝王切開で出産した人の約6割は、私や姉のような「緊急帝王切開」です。

しかし、その可能性に備えて「パパ、2カ月前から仕事休んで!」「一刻も早く、全ての物を揃えておこうかしら」…というのは現実的ではありません。

一番必要なのは、「私も緊急帝王切開になる可能性があるんだ」と心の準備をしておくことだと思います。そして、それを家族にも伝えてシミュレーションしておくと良いかもしれませんね。

今回のエピソードで誕生した赤ちゃんたちは現在、2人とも元気に小学校に通っています。これからも2人の成長は続きますし、同じように世の中の子どもたちの未来は無限大です。

それを思うと、経腟分娩でも帝王切開でも、予定帝王切開でも緊急帝王切開でも…赤ちゃんの誕生はどれも共通して、本当に素晴らしいものだと実感します。

妊婦さんたちにとって不安なことや不便なことが多いこのご時世。

少しでも心の準備を整えて、無事のご出産を迎えられますように願っています!

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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