<麻酔を使う出産とは?>

麻酔を使う出産には帝王切開と無痛分娩があります。現在の日本では出産の約20%が帝王切開、約6%が無痛分娩となっており、麻酔を使った出産は身近なものになっています。特に帝王切開はどの妊婦さんにも起こりうることなので、いざという時に慌てないためにもどのようにして麻酔を使うのか知っておきたいところです。

<帝王切開の麻酔>

帝王切開の麻酔方法には全身麻酔と局所麻酔があります。

全身麻酔での出産は点滴から麻酔の薬を注入したり肺から吸い込む麻酔の薬を用いたりします。薬が入ると急に眠くなり意識がなくなります。手術の間、お母さんはずっと眠っています。目が覚めたときには出産は終わっています。

一方、局所麻酔での出産は背中にある神経の束の近くに薬を投与し、胸下から足先までの痛みの感覚をなくします。薬は脳には作用しないため、お母さんの意識ははっきりしていて、赤ちゃんが産まれてきたときの泣き声も聞こえます。局所麻酔はお母さんと赤ちゃんへの影響が少なく、帝王切開においては第一選択の麻酔方法です。

しかし、緊急帝王切開の中でも特に急いで帝王切開を行わなければならないときやお母さんの血液が固まりにくいときなど、やむを得ず全身麻酔を行う場合もあります。

<無痛分娩の麻酔>

点滴からの鎮痛薬投与と硬膜外鎮痛があります。

点滴からの鎮痛では静脈の中に麻薬を投与し、痛みを和らげます。薬の影響によりお母さんや赤ちゃんが眠くなったり、呼吸が弱くなったりすることがあります。

一方、硬膜外鎮痛は帝王切開でも使われる局所麻酔の一種で、脊髄と呼ばれる痛みを伝える神経の近くに薬を投与するため、とても強い鎮痛効果があります。お母さんへの薬の影響は少なく、さらに薬が胎盤を通って赤ちゃんへ届くことがほとんどないことから多くの国で無痛分娩の第一選択の麻酔方法とされています。

しかし、お母さんの血が止まりにくいとき、背骨に変形があるとき、神経の病気があるとき、硬膜外腔に薬を注入するための管を入れる場所に膿が溜まっているときなどは、硬膜外鎮痛を受けられない場合があり、点滴から静脈に鎮痛薬を投与する方法を選択します。

<局所麻酔の種類>

局所麻酔には脊髄くも膜下麻酔(脊髄くも膜鎮痛法)、硬膜外麻酔(硬膜外鎮痛法)、両方を組み合わせた脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛法)という3つの種類があります。

施設や麻酔担当医の方針、お母さんの状態などを考慮した上で、そのうちの1つが選ばれます。

帝王切開では一般的には、脊髄くも膜下麻酔(脊髄くも膜鎮痛法)、または脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛法)のどちらかが行われます。

無痛分娩では硬膜外麻酔(硬膜外鎮痛法)、または脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛法)が行われます。

脊髄くも膜下麻酔(脊髄くも膜鎮痛法)とは、背中の腰のあたりから脊髄くも膜下腔という場所に薬を投与します。薬の注入を始めるとすぐに、足やお尻が温かくなりビリビリしてきます。やがて足の感覚がなくなり重い感じがして、5分もすれば、おなかから胸にかけて感覚の鈍い感じが広がり、足が動きにくくなります。帝王切開手術を快適に受けるためには、胸から足先までの痛みの感覚がなくなる必要があります。しかし、触られる感覚、押されたり引っ張られたりする感覚は残ります。手術が終わったあと、麻酔の効果は胸から消えていきます。そしてだんだんと足も動かせるようになってきます。背中の注射をして数時間後には感覚がもとに戻るのが普通です。

硬膜外麻酔(硬膜外鎮痛法)とは出産の痛みを伝える神経が集中している背骨のところにある硬膜外腔という場所に細くて柔らかい管を入れ、管から薬を注入して痛みをとる方法です。硬膜外腔に管を入れたままにしておくので、薬の注入は分娩の長さに応じて必要な時間だけ続けることができます。ポンプを使って持続的に鎮痛剤を入れることができるので鎮痛効果は持続します。硬膜外鎮痛法は無痛分娩のときのみに用いられる方法ではなく、手術や手術後の鎮痛の目的で日常的に使われている方法でもあります。

脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛)では、脊髄くも膜下腔と硬膜外腔に入れる管の両方から薬を投与します。無痛分娩の場合、硬膜外麻酔のみで行う鎮痛法に比べて効果が早く現れ、数分後にはある程度の鎮痛効果が感じられます。硬膜外腔に入っている管からポンプを使って鎮痛剤を注入できるので、帝王切開の場合には出産後に傷の痛みを和らげることも可能です。

<赤ちゃんに麻酔の影響はあるの?>

局所麻酔では、背中の神経の近くに薬を投与するため、お母さんの全身をめぐる麻酔の薬の量はわずかです。赤ちゃんへの影響もほとんどありません。それに比べて全身麻酔や点滴からの鎮痛剤投与では、お母さんの血液中に含まれる麻酔薬の量が多くなり、それらの一部は胎盤を通して赤ちゃんにも届きます。しかし赤ちゃんへの影響は、産まれたばかりのときに一時的に少し眠そうであったり、呼吸が少し弱くなったりすることがある程度で薬の影響がなくなれば、すぐに元気になります。

<まとめ>

麻酔を使った出産である帝王切開は誰にでも起こりうることです。また、出産方法として無痛分娩を選択される方も増えてきています。麻酔の影響を心配される方も多いかと思いますが、出産はお母さんと赤ちゃんにとって安全で幸せであることが最も大切です。麻酔への正しい知識を持っているといざという時にも安心です。どうぞお体を大切に良い出産をお迎えください。

(参考:一般社団法人 日本産科麻酔学会HP)

この記事の監修者

坂田陽子

経歴

葛飾赤十字産院、愛育病院、聖母病院でNICU(新生児集中治療室)や産婦人科に勤務し、延べ3000人以上の母児のケアを行う。
その後、都内の産婦人科病院や広尾にある愛育クリニックインターナショナルユニットで師長を経験。クリニックから委託され、大使館をはじめ、たくさんのご自宅に伺い授乳相談・育児相談を行う。

日本赤十字武蔵野短期大学(現 日本赤十字看護大学)
母子保健研修センター助産師学校 卒業

資格

助産師/看護師/国際認定ラクテーションコンサルタント/ピーターウォーカー認定ベビーマッサージ講師/オーソモレキュラー(分子整合栄養学)栄養カウンセラー

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